隣の彼 じれったい近距離両片思いは最愛になる、はず。

隣の彼 じれったい近距離両片思いは最愛になる、はず。

last updateآخر تحديث : 2025-07-05
بواسطة:  雫石しまمكتمل
لغة: Japanese
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冷徹で有名な議員秘書、近江隆之介は、新入事務員の高梨小鳥にエレベーターで一緒になり一目惚れする。そんな二人が新人歓迎会で出会い、小鳥は泥酔状態。そのまま二人は一夜を過ごすが、なんと同じマンションに暮らす隣人だった!近江隆之介は自分の身の上を隠し逃げ惑う。小鳥は、顔を知らない一夜の相手を探して右往左往。二人の恋の行く末は。

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الفصل الأول

忘却の一夜

 桜舞い散る季節に、二人はエレベーターの箱の中で出会った。視線が絡み合い頬が火照る。胸は高鳴りその姿に釘付けになった。

あの人は誰

あいつは誰なんだ

 そんな二人が恋に落ちるまで、ほんの少しだけ時間が必要だった。

 薄暗い部屋に、芳醇なウィスキーの香りが漂っていた。まるで琥珀色の記憶のように、香りは彼女の首筋をそっと這い上がり、舌先の温もりと共に肌をくすぐった。彼女の細い指先は、仄かに桜色に染まりながら、彼の逞しい肩甲骨をなぞる。そこには、鍛え上げられた男の輪郭が刻まれ、触れるたびに彼女の胸から小さなため息がこぼれた。

 彼の筋肉質な手は、力強くも優しく、彼女の豊満な胸に触れた。指先はまるで命あるもののように、ゆっくりと脇腹を滑り降り、彼女の肌に微かな戦慄を残す。静かな部屋に、彼女の唇から漏れる微かな喘ぎ声が響き、まるで夜の囁きと溶け合うようだった。

「お前が好きだ。俺はお前が好きなんだよ、覚えておけ。」

彼の声は低く、熱を帯びて耳元で繰り返される。その言葉は、まるで呪文のように彼女の心を縛り、互いの脚を絡ませた。絡み合う二人の熱は、全身に滴る汗となり、部屋の空気を重く、甘く変えた。時間は止まり、ただ二人の鼓動だけが、夜の静寂を刻んでいた。

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忘却の一夜
 桜舞い散る季節に、二人はエレベーターの箱の中で出会った。視線が絡み合い頬が火照る。胸は高鳴りその姿に釘付けになった。あの人は誰あいつは誰なんだ そんな二人が恋に落ちるまで、ほんの少しだけ時間が必要だった。 薄暗い部屋に、芳醇なウィスキーの香りが漂っていた。まるで琥珀色の記憶のように、香りは彼女の首筋をそっと這い上がり、舌先の温もりと共に肌をくすぐった。彼女の細い指先は、仄かに桜色に染まりながら、彼の逞しい肩甲骨をなぞる。そこには、鍛え上げられた男の輪郭が刻まれ、触れるたびに彼女の胸から小さなため息がこぼれた。 彼の筋肉質な手は、力強くも優しく、彼女の豊満な胸に触れた。指先はまるで命あるもののように、ゆっくりと脇腹を滑り降り、彼女の肌に微かな戦慄を残す。静かな部屋に、彼女の唇から漏れる微かな喘ぎ声が響き、まるで夜の囁きと溶け合うようだった。「お前が好きだ。俺はお前が好きなんだよ、覚えておけ。」彼の声は低く、熱を帯びて耳元で繰り返される。その言葉は、まるで呪文のように彼女の心を縛り、互いの脚を絡ませた。絡み合う二人の熱は、全身に滴る汗となり、部屋の空気を重く、甘く変えた。時間は止まり、ただ二人の鼓動だけが、夜の静寂を刻んでいた。
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4月3日 月曜日 エレベーター 近江隆之介
キッ! 近江隆之介は金沢市役所庁舎裏の自転車置き場の定位置に自転車を停めると、サドルをぽん!とひと叩きして階段を駆け上がった。開庁前の庁内は節電の為に電灯も疎で、北國銀行のシャッターは開く気配も無く薄暗い。 議員出勤の電光掲示板に、久我今日子市議会議員の名前は既に点灯している。(姉貴、珍しくはえぇな。やる気満々じゃん)近江隆之介 35歳、独身。  胸板は厚く、臀部や太腿、脹脛はキュッと引き締まっている。身長は185cm、髪の色は黒、緩くパーマが掛かった軽めのツーブロック。顔は面長、眉毛はスッと真横に、奥二重で小鼻は小さく薄い唇、面差しはどちらかと言えば冷たい印象だ。 金沢市議会議員 久我今日子議員秘書、勤務歴10年。近江隆之介は久我議員の実弟だが敢えて公にはしていない。  カツカツカツと黒い革靴の踵を鳴らし、向かって右側のエレベーター、閉まりかけた扉に滑り込んだ。「おっ、と。すみません。おはようございます」 市役所職員に挨拶をし、一番奥に場所を取った。黒いスーツのポケットからネームタグを取り出し首に掛け、何気なく右横を向くと、新卒中途採用職員の群れの中に、男としては妙に艶っぽい横顔があった。 ノーフレームの眼鏡を掛けた切れ長の目。長いまつ毛。少し膨らみのある唇。ショートヘアーの綺麗な頸。(うっわ。まつ毛長ぇなぁ) それは、姉のバサバサとした人工的なつけまつ毛などでは無く、生来の活き活きとしたまつ毛。ノーフレームの眼鏡に隠された涼やかな目元が印象的だった。(こりゃあ、女性職員が喜ぶわ) その彼は2階、3階、4階と降りる気配が無かった。(議会事務局職員?) エレベーターのひと気が疎になり、ふと目を足下に遣るとそこには黒いパンプス、素足に白い靴下、膝丈のタイトスカート、目線を上げると白いカッターシャツの中には程良い膨らみ。(え、何、こいつ女!?) その横顔は男性そのもので全身を見遣るまで女性だとは予想もしなかった。ポーン 6階、ここは金沢市議会議員(与党)の議員控室がある、此処で俺は降りる。彼女が降りる気配は無く、エレベーターの味気ない床に目線を落としている。上階、7階に向かうという事は、議会事務局職員か(野党)の事務職員といったところか。「あ、降ります」 黒い革靴が足を一歩踏み出す。エレベーターを降りた途端、其処から立ち去る
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4月3日 月曜日 エレベーター 高梨小鳥
シューっ 自動ドアが開く。後ろ手に脚を広げて立つ、青い上下の制服。目深に青い帽子を被った警備員に軽く会釈する。 「おはようございます」  開庁前の庁内は節電の為、電灯も疎で銀行のATMはライトが消え薄暗い。 待ち合わせの場所は金沢市役所新館1階のロビー。少し黒々とした髪の毛に紺のスーツ、白いシャツに黄色いネクタイを締めた議会事務局長の点呼を受ける。 (あれは絶対にカツラだ) 「はい、それでは皆さんネームタグは各会派、事務局で受け取って下さい」 「はい」 「国主党は6階」 「はい!」  大人数、威勢の良い返事がホールに響く。 「自主党は・・・・あぁ、高梨くんだけだね、君は7階」 「はい」 「議会事務局職員も7階まで上がってください」 「はい」高梨小鳥 25歳、独身。 彼氏いない歴5年。 ベッドサイドに立て掛けた木枠の姿見に映る黒髪は耳までのショートヘア。 面長でスッと通った鼻筋、切れ長の二重、まつ毛は長く黒く大きな瞳、少しぽってりとした唇・・・然し乍らの男顔。 身長は165cm。金沢市議会事務局 自主党会派事務職員。この4月に採用されたホヤホヤの新人である。 議会事務局長がずんぐりとした指でエレベーターのボタンを押す。スルスルと5、4、3、2、1階と黄色いランプが降りて来た。「さぁ、入って入って」 新卒中途採用の面々はカツラさんに背中を押されてエレベーターの箱の中にどんどんと詰められた。ぎゅうぎゅうとまではゆかないが、狭苦しい。  そこへカツカツカツと革靴の踵を鳴らして閉まりかけたエレベーターの扉に一人の男性が滑り込んだ。「おっ、と。すみません。おはようございます」 市役所職員に挨拶をした彼はグイグイと中に入り、黒いスーツのポケットからネームタグを取り出し首に掛けた。臙脂の渋い赤茶のネクタイが似合っている。指先が整っていてそれが印象的だった。(ちょっと、怖そうかも) そう感じつつも小鳥は横目でチラチラと彼の面差しを見上げた。身長は・・・高い180cm、もう少しあるかな。髪の色は黒、緩くパーマが掛かった軽めのツーブロック、市役所職員でもツーブロックってアリなんだ。顔は面長、眉毛はスッと真横に、奥二重で小鼻は小さく薄い唇。(カッコいいなぁ、これぞイケメンだわ) 2階、3階、4階と降りる気配が無い。(この上まで
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4月3日 月曜日 議員紹介 自主党
エレベーターホールで呆け掛かった小鳥だったが、始業開始のチャイムで我に返った。(いやいやいや、今はそれどころじゃない!初出勤!) 小鳥は議会事務局員に手招きされカウンターの出勤簿に印鑑を押し、そのファイルを片付ける棚を教えて貰った。ドキドキする。小鳥はふかふかのカーペットの上を左に曲がる。深い紺色の廊下はソールが沈み込む程の厚さがある。ドキドキする。扉を三つ数えると黒地に白い筆書き、自主党と表札が掲げられている。ドキドキする。ここが小鳥の職場だ。 赤茶色の重厚な扉を3回ノック。「失礼します」 一歩踏み入れると書類の紙の匂い、コピーカートリッジのインクの匂いに包まれた。真向かいの大きな6枚の窓ガラスは、庁舎の黒い枠に覆われている。外には中央公園の青いポプラ並木が金沢城址公園まで真っ直ぐに続いていた。(此処が私の職場) 圧倒されていると、これまた重厚な机に向かっていた2人の男性がくるりと椅子を回して振り向いた。「君が・・・・ええと」 「田辺さん、高梨さんですよ、覚えて下さい」 「あぁ、高梨くんね」 「はい」 年配の男性が立ち上がりこちらに向かうと、次いで若い男性がそれに倣った。大きな手をスっと差し出し、小鳥に握手を求めた。温かい落ち着いた手だと思った。次にその背後からヒョイと顔を出したのは人懐っこい笑顔の若手議員。「初めまして。僕の名前は田辺五郎、自主党市議団の団長です」 (この男性が、金沢市議会 野党 の偉い人)田辺五郎 60歳 自主党 金沢市議会議員 当選回数9回 自主党市議団の団長。 ほうれい線をはじめ目元口元にはその歴史がガッツリと刻まれている。身長160cm、ずんぐりムックリとして愛嬌がある。タヌキみたいだ。「僕は藤野健、よろしくね」藤野健 35歳 自主党 金沢市議会議員 当選回数1回 若手の期待される新人議員。 清潔感あふれる黒くふわりとした前髪、整えられた襟足。身長185cm、如何にも清廉潔白を絵に描いた、政治家のポスターにありがちな顔。「名前は、小鳥。高梨小鳥さん」 「はい」 「小鳥ちゃんって呼んでいい?」 「は、はぁ」 真面目そうで意外と軽そうだ。(田辺さんと藤野さんが私の上司) 小鳥は息を吸い、大きくお辞儀をして精一杯笑顔を作った。「よろしくお願いいたします!」 すると2人は腕を組みながら
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4月3日 月曜日 議員紹介 国主党
ポーン 金沢市役所新館6階、国主党議員控室のあるフロアだ。電光掲示板に久我今日子の名前にライトが黄色く点灯する。 エレベーターから降りてきたのは、ゴージャスな巻き髪、白いカッターシャツにエルメスのスカーフ、黒い膝下までのタイトスカート、エルメスの鞄、スターバックスブラックコーヒーのラージサイズを手に持った、久我今日子だ。久我今日子 45歳 国主党 金沢市議会議員 当選回数3回 ゴージャスな肘までの栗色の巻き髪。近江隆之介の実姉。「おはよう、坊や」 「おはようございます先生、それはやめて下さい」 「あら、何だか機嫌が良いわね」 「別に、そんな事は無いです」 「口元が緩んでいるわよ」 近江隆之介は慌てて口元を隠し、久我今日子はそれ見た事かと鼻で笑った。ふと近江隆之介の目が久我の巻き毛に留まる。「久我先生、歩いて来られたんですか?」 「ええ、広坂通りの桜が綺麗だったから」 「綺麗とか、意外ですね」 「人を何だと思ってるのよ」 「議会の鬼」 「女だからって、ジジィ共に舐められたく無いだけよ」 そう言葉を掛けつつ久我の巻き髪にハラハラと降った薄ピンクの花弁を数枚、整った指先で摘んでゴミ箱に捨てた。それはまるで抱擁を交わしている様にも見える。「ありがとう」 「どういたしまして」 一連の仕草を、廊下を歩いていた事務職員がその抱擁を見てしまい、顔を赤め足早に走り去った。そして新聞紙を配布して歩いていた女性秘書に鼻息も荒く捲し立てる。「な、長野さん。見ちゃいました!」 「でしょ」 「久我議員と近江さんって」 「付き合ってるみたいなの、一年前くらいから噂されててね」 「ふ、不倫って事ですか?」 「そう」 慌てふためいた事務職員の背中を見送った久我が呟く。「良い加減、観念して弟だって公表しちゃえば?」 「身内贔屓と思われたくないだけです」 近江隆之介はそれだけ答えると、スチールデスクの上のiPadを手にした。久我のスケジュールを読み上げ始める。「明日から一泊二日で宇都宮市に視察、朝、8:57の北陸新幹線です」 「”かがやき”でしょうね、途中停車とか勘弁よ」 「大丈夫です」 「グランクラス」 「な、訳ないでしょう。グリーン車です」 「ちっ」 近江隆之介の口元は自然と緩む。
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4月4日 火曜日 尾行のち驚愕
キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン 終業のチャイムが鳴る。 近江隆之介は1階へ降りるエレベーターの中で、明日の出張に備えての準備に思いを巡らせていた。通常ならば久我議員の送迎等で勤務中なのだが今日は特別だ。(髭剃りと、アメニティはホテルの備え付けで済ますか) エレベーターから降りてふと顔を上げると、閉庁後の片付けに追われる市民課のカウンターの前を通り過ぎた形の良い後頭部、整えられた頸が見えた。 あの彼女の背中が庁舎裏口に消える。近江隆之介が利用する自転車置き場の方向だ。彼女の歩調は意外と早く、あっという間にそれは石畳の道へと曲がってしまった。「ちょ、ま」 慌てて庁舎裏の自転車置き場への階段を駆け下りるとキーチェーンを外し、方向転換する。他の自転車を倒した事も気付かずに、自転車を押してその後を追い掛けた。 石畳のカーブを曲がり、赤信号で黒いパンプスが止まる。近江隆之介は電柱一本分後ろで足を止め、青信号になるのを待った。彼女はスタスタスタスタと早足でバス停を幾つか素通りし、少しばかり急な坂道を下って行く。(バスに乗らない、この近所に住んでるのか?) 途中までは興味本位でその後を付けてみた。「マジか」 近江隆之介は自転車用横断歩道が青になるのを待ち、自転車を押して交差点を渡った。彼女の間抜けな足音は菊川町のコンビニエンスストアの前も通り過ぎ、交番と消防署の前から、桜橋を渡った。(待て、待て、待て。同じ方向じゃねぇか) 思わぬ事態で同じ方向に足が進み、桜橋を越え、彼女は急なカーブの桜坂を登り始めた。「ちょ、嘘だろ」 いや、この先は古い住宅街、そこを抜ければ大通りに出る。きっとその方向へ真っ直ぐ進む筈だ。 ところが彼女は細い道を左に曲がり、車一台しか通れないコンクリートの生垣が並ぶ路地を一直線に歩いて行く。この先はT字路になり突き当たりが近江隆之介のマンションが建っている。 胸の鼓動が早り、喉仏がごくりと上下する。彼女のほっそりとしたウェスト、きゅっとしまった足首が、かぽかぽと間抜けな音を残してマンションに入って行った。(マジか!) 慌てた足が縺れエントランスに向かうと既にエレベーターは上昇していた。 2階、3階、エレベーターは近江隆之介の住む3階フロアで停止する。頬が赤らみ、こめかみが腫れ上がるほどに脈打っているの
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4月7日 金曜日 歓送迎会
今夜の歓送迎会は議会事務局長の挨拶から始まり、次はお待ちかねの新卒中途採用職員の挨拶と自己紹介、その中に彼女もいる筈だ。こんな千載一遇の機会は無いだろう。名前、住所を尋ねて同じマンションなら帰りのタクシーぐらい隣に座っても許されるだろう。(LINE交換くらいはイケんじゃね?) 近江隆之介はいつもに無く積極的で前のめり気味だった。ただ此処までは良かった。(・・・・・くそ) 久我議員が参加した会合が紛糾し、地元住民との話し合いの場が思いの外長引いてしまったのだ。ライトアップされた兼六園の夜桜のアーチを潜り抜け、黒いクラウンの公用車は金沢市役所に向かっていた。「何よ、機嫌悪いわね」 「いいえ」 「そんなに待たせたかしら?」 「いいえ」 いつもは暇を持て余し、ダラダラと運行記録簿をつける近江隆之介だったが今夜は違った。まるで別人の様に手際よく公用車を洗車し、運行記録簿を記入して警備室に走った。職員出入り口横のトイレで髪の毛を濡らしてパーマの縮れ具合を手直しすると、歯ブラシを取り出し口中を泡だらけにした。(よし、行くぞ!) 「お疲れ様でした!」 近江隆之介は両手で頬をパンパンと叩き、黒い革靴を鳴らして広坂大通りの夜桜ぼんぼりの下を走りに走った 香林坊の三叉路の交差点で二の足を踏む。右折車線の矢印が歯痒い。(早く、早く変われよ、おい!)ピッポーピッポー ピッポーピッポー 機械的な鳥の鳴き声が横断歩道の青信号を告げる。人並みを掻き分けて白い線を一段跳びに渡る。汗が滲む。(なんか、あいつに会ってから、走ってばっかじゃねぇか) 片町アーケード街。並んだ店先を一軒、二軒、三軒と数える。マクドナルドの斜向かいの路地、赤提灯に焼き鳥の匂いが香ばしい小さな十字路に飛び込んだ。「あ、すんません!」並んで歩く学生服の肩にぶつかり手を挙げる。 はぁ はぁ はぁ はぁ スーツのジャケットに脇汗を掻き、間口の狭い古民家風居酒屋の引き戸を開けた。「ヘィ、らっしゃ〜ぁい!」 ジャラジャラした暖簾を潜ると、威勢の良い掛け声が近江隆之介を二階へと誘った。黒い革靴を脱ぐと靴下の裏まで湿っぽい。黒い木製の階段をギシギシと上る。もう既に皆、出来上がっているのか声量がバカでかく、公務員にありがちな普段のフラストレーションを発散するような笑い声が飛び交っている。
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歓送迎会②
(いた) ノーフレームの眼鏡の下の頬は赤らんでいた。あの輪の中にどうやって入ったら良いのか分からず、開式に遅れた事を心から悔やみ、姉の事を恨めしく思った。ぼんやり立っているとカツラではないかと噂されている議会事務局長が手招きをした。「おぉ、近江くん遅かったね、ま、ま駆けつけ一杯」「あ、どうも。遅くなりまして」「久我さんの送りかい?」「はい」「君も大変だねぇ」 ずんぐりとした指の議会事務局長が注ぐビールのグラスに作り笑いで会釈しながら耳を側立てていると、彼女の名前が《たかなし》だという事が分かった。「いやぁ、小鳥、ことりって面白い名前だねぇ」 名前が《ことり》だという事も分かった。乾いた喉に水滴の付いたグラスを空にすると、まぁまぁもう一杯。と琥珀色の液が泡を立てながら注がれる。「で、今日の会合はどうだったんだい?」「はぁ、まぁ、揉めたようで」「ゴミ問題は深刻だからねぇ」 いや、深刻なのはこの状況だ。近江隆之介は汗だくになって金曜日の人混みを掻き分けて全力疾走し、カツラ疑惑の議会事務局長とビールを呑む為にここに座っているのでは無い。(どうするよ、しかもあいつ、もう限界じゃね?) 彼女の顔を眺め、手元の焼酎のグラス越しの胸のラインを眺め、テーブルの上の枝豆の山を眺め、その下の暗がりに目を遣ると、手癖の良くない議会事務局職員の左手が動いた。それはスルスルと遠慮なく伸び、”たかなしことり”の正座したタイトスカートの太腿に辿り着きジワリと動いている。(セクハラも大概にしろや) 我に帰ると近江隆之介は、彼女の二の腕をむんずと掴んでその場所から立ち上がらせていた。傍に置かれていた焦茶のショルダーバッグを拾い上げる。「皆さん、ちょっと飲ませすぎじゃないですか」「あ、すまん」「タクシー呼んでください」 一瞬、場が静まり返る。確かに彼女の意識は朦朧とし、足元もふらついていた。「そ、そうだね。近江くん、これ使って」「ありがとうございます」「彼女、寺町のマンションだから」(やっぱり、うちと同じマンション) やはりこれ以上の飲酒は宜しくないと判断した議会事務局長は、北陸交通のチケットを近江隆之介に手渡した。ギシギシと黒い木の階段を”たかなしことり”の脇を支えながら降りる。「大丈夫か、足、気ぃつけろ」 すると”たかなしことり”は近江隆之介
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歓送迎会③
金曜日の片町はそこそこ賑わっている。片町スクランブル交差点では呼び込みの黒服があちらこちらに声を掛けては手招きをしていた。タクシーの行列は何処までも伸び、その中から北陸交通のタクシーを選んで後部座席の窓をノックした。「悪いんだけど、寺町まで」 金沢市役所のタクシーチケットを手渡す。800円、近距離の客はやはり一瞬嫌な顔をされるが致し方ない。ルームミラーのドライバーの目を見ながら軽く頭を下げた。「あ、そこのカメラ屋曲がって下さい」 「はい」 タクシーのウィンカーがカチカチカチと左に折れる。近江隆之介の心臓もドクドクドクと跳ねる。(どうする、どうする、俺) この角を左に曲がれば突き当たりにマンションが見えて来る。「”たかなし”、起きろ。着いたぞ」 その間、アルコール臭漂う”たかなしことり”は、近江隆之介の肩に頭を預けたまま微動だにしなかった。確か302号室のネームプレートは、たかなし。 議会事務局長も言った。『彼女、寺町のマンションだから』 間違いない筈だ。タクシードライバーにチケットを手渡すと、下心を見透かされたかの様に彼の口元がニヤリとほくそ笑んだ、そんな気がした。「ありがとうございました」 「どうも」 タクシーのテールランプが暗闇に消え、走り去るのを見送ってマンションのエントランスに向かう。「おい、おい」 「・・・・・」 「おい、たかなし」 肩を振ってその頭を揺すると反応があった。「は、はい」 「マンション着いたぞ」 「はい。ありがとうございます」 エレベーターに乗り込むと、彼女は条件反射の様に3階のボタンを押した。 間違いない”たかなしことり”だ。「たかなし、お前、何号室だ」 「はぁい」 「はぁいじゃねえよ、何号室」 「302」 ポーン  すっかりこちらへ身体を預けた彼女を半分引き摺りながら、外廊下を一番端に向かって歩く。ずるずると結構な重さだった。「たかなし、着いたぞ。鍵、鍵出せ」 「えぇぇ」 「鍵、だよ鍵」 「鍵、鍵」 抱えられた片手で焦茶のショルダーバックを弄るが、逆にヒモの部分がぐるぐると首に絡まってとんでもない状態になっている。「お前、そこ座ってろ」 すると彼女はヘナヘナとまだ冷たいだろう四月の廊下に座り込み、アルコール臭い息を吐いては吸っていた。ショルダーバッグの中には白い携
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4月7日 金曜日 甘い夜
 近江隆之介は301号室のディンプルキーを鍵穴に差し込みそれを右に回した。カチャン やや重い音がしてドアノブが回る。ゴクリと喉が鳴った。 取り敢えず、この花冷えの夜に放り出す事も気の毒だと、部屋に連れ込む理由をあれこれ瞬時に脳裏で思い描きながら、床に座り込んでいた”たかなしことり”を立ち上がらせた。「良いか、俺の部屋に入るぞ」 「はい。分かりました」 「分かりましたじゃねぇよ」 とりあえず玄関先に座らせて黒いパンプスを脱がせ、両脇を抱え、ずりずりとリビングまで運ぶ。「くっそ、重てぇ」 外廊下に落ちた焦茶のショルダーバッグを拾い上げてソファの上に置き、フレームレスの眼鏡を外してリビングテーブルの上に置いた。「・・・・さて、と」 近江隆之介は腕組みをして考え、とりあえず、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出しグラスに冷たい水をトプトプと注ぎ、ゴクゴクと飲み干した。「・・・・ふぅ」 「んんん」 もう一度ペットボトルを傾けグラスに半分ほど水を注ぐ。”たかなしことり”の目の前に水滴の付いたグラスを「ほれ。」と差し出すと、彼女はにっこりと微笑んで受け取った。「ほれ、飲め」 「ありがとう」 冷たい水をごくんと飲み込んだ”たかなしことり”は、ぷはぁと気持ち良さげに息を吐いてトイレに行きたいと言い出した。「トイレ行きたいですぅ」 「なら立てよ」 その背中はトイレへと消えた。「さて、どうしたもんかな」 近江隆之介は臙脂のネクタイを緩めるとスーツをハンガーに掛け、ネクタイを外してソファに投げた。「どうしたもんかなぁ」 そして床にぞんざいに置いてあった乾いた洗濯物の山から黒のボクサーパンツを引っ張り出し、ソファのグレーのスエットのパンツとフードパーカーを着た。「とりあえず、着るもんだな」 そして”たかなしことり”の為に、ビッグサイズの丈の長い黒いTシャツをチェストの二段目から取り出し、トイレに声を掛ける。「おい、たかなし。もう良いか」 「ふあい」 「いい加減出て来い、俺もトイレ行きてぇ」 近江隆之介はトイレのドアを2回ノックした。「ふぁい」 「おい」 「ふあい」 返事は良いが一向に出てくる気配は無い。「すまん、開けるぞ」 案の定、便器に座りむにゃむにゃと惚けている。部屋にズルズルと引き摺り出し放置。「
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